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宗教法人の作り方 – 2.1 設立の要件を確認しよう
設立の手順を詳しく説明する前に大事なことを確認しなければなりません。株式会社は書類が揃えば設立できますが、宗教法人の場合そうはいかないのです。独自の要件を満たす必要があります。
要件は法律等でざっくり大まかに定められていて、細かいところは所轄庁が独自に判断しています。つまり、「これさえ満たせばOK!」というはっきりした基準はなく、しかもその時々の状況に応じて変わります。なおかつ、細かい基準を教えてくださいと尋ねても教えてくれるとは限りません。あまり基準を明確にすると、形だけ整えた実態のない宗教法人が乱立してしまうことを当局は懸念しているようです。
とはいえ、どの所轄庁でも共通する事項はあります。まず最低限、ここにある要件を満たせそうか否かを設立手続きに着手する判断の参考としてください。
宗教「団体」である
株式会社は社長1人だけでも設立できます。対して、宗教法人は複数人集まった「団体」が設立するものです。個人ではありません。あくまでも、「団体」が主体となります。
では何人からが団体なのでしょうか? 辞書的な定義でいえば、2人以上からそう名乗れそうですし、法律には「団体」とだけ書かれていて、その言葉の定義は書かれていない。じゃあとりあえず2人いれば良いんだね、と言いたくなりますが、恐らく現実には2人だけで許す所轄庁はないでしょう。
必要な人数については所轄庁によって随分考え方が違います。50名以上という所轄庁、100名以上という所轄庁、定めていない・明かさないという所轄庁、いろいろです。
ですが、100名は一つの目安として考えられます。もし、ご自身の団体の会員数が100名を超えていれば、人数についてあまり心配しなくて良いでしょう。50名程度ならば、所轄庁の基準を確認して対応を考えるべきです。50名未満の場合は、まだ少し会員の勧誘が必要かもしれません。
活動目的が法律に沿っている
団体は以下の3つの活動を主な目的として設定していなければなりません。
宗教の教義を広める
宗教であるからには、何らかの「教え」のようなものを持っていると思います。それを持っているだけでなく、世の中の人々に広めていく活動をしている必要があります。
例えば、教義を解説するセミナーを開いて家族や知り合いを誘ったり、パンフレットやチラシを作って配ったり…というような活動ですね。
儀式行事を行う
儀式行事のイメージは、例えば、集会場や広場に複数の信者が集まって、指導者のもとに祈りを捧げるような活動です。キリスト教会であれば毎週日曜日の礼拝、イースターの行事、クリスマスの行事など、神社であれば毎月の月次祭、春祭、夏祭など。これらを日頃から行っていなければなりません。
どれくらいの頻度で行っていれば良いですか? というご質問を受けることがありますが、決まりはありません。その団体のあり方や教義に照らして行うべき行事を行っていれば良い、ということです。
信者を教化育成している
「教化」とは聞き慣れないかもしれませんが、「布教」と似たような意味で使われる言葉です。信者を教え導き、宗教的レベルを高める活動のことです。
例えば、団体の内外で講義や勉強会を開く、習熟レベルによって資格を認定する、宗教的指導者を育成する、という活動がこれにあたります。
これら以外の活動をしてはいけないわけではありません。土地や建物を賃貸したり商品を販売したりするような、利益を生む事業を行うこともできるのですが、バランスが重要です。宗教活動と比べてあまりにも事業活動の規模が大きければ、どちらが本当の活動目的なの? と問われかねません。事業はあくまでも宗教活動を支える補助的なものでなくてはならない、ということです。
礼拝の施設を所有している
これが一番ネックになりがちかもしれません。礼拝の施設とは、上記の目的を達成するために必要な土地・建物のことです。寺院であれば本堂、イスラム教であればモスク、神社であれば社殿など、礼拝に使う建物が中心的となるでしょう。
自己所有が原則
原則的に、施設を自分たちで所有している必要があります。なぜなら、そもそもどうして宗教法人という形態の法人が存在するのかというと、宗教活動するために絶対に必要な土地・建物を持つには法人じゃなければ不便だよね、という国の考えが根底にあるからです。持っていないなら法人である必要もない、ということになります。
なお、法人になる前に自己所有する際には、仮で代表者個人の所有にしている場合が多いです。
ただ、自己所有であっても抵当権が設定されていてはいけません。抵当に入っていると、いつ所有権を失ってしまうかもわからず、安定して宗教活動ができる状態とは言えないからです。
例外もあるが…
上で「原則的に」と書いたのは、法律等の定めでは必ずしも所有まで求めていないためです。実際、地方の古い小さい神社では境内地が個人所有であることもしばしばです。とはいえ、それは戦後の時代に作られた宗教法人の話。現代では、ほとんどの所轄庁が自己所有を求めていると考えてください。
ただ、現在土地や建物を持っていなくても、十分な現金を持っていたり、資金を調達できる見込みがあったりする場合は所轄庁に交渉してみても良いかもしれません。
また、ごく少数だと思いますが、中には賃貸でも良いとしている所轄庁もあることはあるようです。駄目で元々くらいのつもりで確認してみるのも手です。その場合は10年以上の長期に渡って安定的に賃貸できることが当面の条件として示される可能性があります。
どのくらいの大きさが必要か
これもよくご質問いただく事柄です。何平米以上ならOK…という基準があるわけではありません。儀式行事と同じく、団体の活動内容に照らして考えます。日頃の儀式行事、教化活動などに使うために十分な広さがあれば良い、ということです。
マンションの部屋を礼拝施設として認めてもらうことは難しい、と一般的に言われています。それは例えば、100人も信者がいる団体が、一家族が暮らすような大きさの部屋を礼拝施設として申告してきたら、本当にこんな広さで大丈夫なのか? 大勢集まってきたときご近所トラブルになるのでは? と疑問に思いますね。マンションだから駄目なのではなく、一見して不自然に思えてしまうことが問題なのです。
マンションの部屋を礼拝施設として認められた事例もあります。その法人は、全国に信者がいて、定期的に出張祈願に出向いたり電話や手紙で祈祷の依頼を受けたり、という方法で数十年間の活動実績を積み上げてきました。その実績を写真や帳簿で証明することによって、信者がいっぺんに参集するような広い施設は必要ないことを認めてもらったのです。
繰り返しになりますが、日頃の儀式行事、教化活動などの実態に即していることを十分納得させられる程度の大きさであれば良い、とお考えください。
礼拝の施設の公開性が高い
礼拝の施設は個人のように閉鎖的であってはならず、公衆に公開されていなければならない、とされています。
何をもって「公開されている」というかは曖昧ですが、神社や寺院などは、誰もが自由にお参りできるようになっていますね。そこまでは求めなくても、少なくとも信者の方が自分の意志で好きなときに拝礼できるような状況は必要です。
例えば、あるイスラム教のモスクは建物の中で礼拝する構造ですが、管理人が常駐しています。一日に数回ある礼拝の時間には、信者の方々がフラッと入ってお祈りできるようになっています。神社ほどではありませんが、公開性がある施設といえるでしょう。
なお、オートロックのマンションは公開性の面では不利な扱いを受けると言われています。
宗教上の指導者がいる
指導者とは、神主、神父、牧師などのことで、儀式行事を主導し信者を宗教的な高みに導いてくれる存在です。
宗教法人は、設立後は永続的に運営されていくことが前提とされます。上記の教化活動にも関連しますが、後進の指導者を信者の中から育てていかなければなりません。そのための組織の仕組みもまた必須といえるでしょう。
規則に従って運営している
規則とは、株式会社でいう定款のようなもので、宗教法人の根本原則を定めておくものです。
ある程度の規模の団体であれば、既に規則を持って運営されているかもしれません。宗教法人にならないのであれば自由な内容で規則を作っても良いのですが、法人化を目指している場合は、法律に従った内容の規則で運営する必要があります。
規則の作り方は後の章で詳しく解説します。
財産が個人から独立している
よくある状況として、団体のお金と代表者のお金がごちゃごちゃになっていて、はっきりと分かれていない…ということがあります。
そのような形ではなく、専用の銀行口座を用意して、会計担当者もいて、しっかりと財務運営が管理されていなければなりません。できれば監事、監査委員などの監査機関も設けてあればベストです。
以上、主要な要件を列挙してみました。すぐには実現できない内容もありますので、「まだ法人化は遠いかな…」という感想を持たれた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、将来的に目指すのであれば、まず手始めに規則を整えることから始めても良いと思います。